金縛りと熱い舌と
中学生の頃、ひどい頭痛で保健室にお世話になった日のことでした。
ベッドに横になり、唸りながらも眠りに落ちかけたころ、左の手首に温かいものが触れました。
何だろう?と思いながらも、うとうとしていたので目は開けず、その温かいものが私の手を包むように握ってくる感覚をぼうっと感じていました。
それは、どうやら誰かの手のようでした。
当時保健室を利用することはそう多くなかったので、ここの先生は手を握ったりしてくれるようだという風に結論付けました。体調不良で気持ちも弱っていたので、大人の優しさが沁みました。
左手に温もりを感じながらしばらく目を閉じていると、次は右手にも同じように温かな手が重なるのを感じました。あれっと思い目を開けると、何も見えませんでした。頭から布団を被っていたためでした。
両の手首に圧迫感を感じます。かたく掴まれて、ベッドの外側にゆっくりと引っ張られていきます。
いつの間にか、両足首も同じように掴まれていました。外へ外へと、四肢がゆっくりと着実に引っ張られていきます。このまま引っ張られ続けたらどうなるんだろう。脳裏に八つ裂きという言葉が浮かびました。
「誰か!誰か!!」
在らん限りの声量で叫んだつもりでしたが、誰かに届いた様子はありません。先に肘、次に膝が掛け布団の外にはみ出しました。喉が締まって声も出せなくなりました。
もしかして、この感触も含めて全部夢なんじゃないか?
ふとそう思いました。それなら全部辻褄が合います。
醒めろ、醒めろと念じながら声を振り絞ろうとしていると何かが脇腹に触れました。熱く濡れた何かで、それは次第に上の方にのぼってきました。多分、舌のようでした。
絶叫したつもりでしたが、実際には絞ったような高い声が少し出ただけでベッドから飛び起きました。あたりは静かで誰もおらず、手首にも特に跡などはありませんでした。
大人になった今、疲れた時などに金縛りや幻触に遭遇することはそう珍しいことではなくなりました。ただ、熱い舌のようなものに遭遇したのはあれきりです。